配達員さん(ハンサムおじさん)の指導を離れ、地図片手に1人で配達するようになるとまず大変だったのがカブのスタミナの無さ。
急な勾配の坂を上っている途中で、そのあまりな傾斜に途中でカブが動かなくなってしまうのです。
ちなみに正規の配達員が乗っている赤白のカブではなく、普通のカブ。
これの荷台に郵便物を積んで坂を上ると、もう全然動きません。
そういう時はもう……原始的に! アスファルトの地面を情熱的に足で蹴りながら! 気合いで! 坂のてっぺんまでいってから、ようやく配達がスタートします。
この時点でけっこうゼイゼイいってます。
配達するにあたってまず言われるのは、
・郵便物を捨てないこと
(ニュースで聞いたことがあるかもしれませんが、たまに捨てて無かったことにしようとする人がいるらしい)
・配りきれないうちに日が暮れたら帰ってくること
(田舎なので街灯が無いところもたくさんあり視界が闇に包まれ危険)
そして
・犬に噛まれないように
です。
犬、いましたよ。私の配達先にも。
めちゃくちゃ稼働域が広いリードにつながれている犬が。
郵便受けにもがっちり届く、長い長いリードの先のドッグ。
私が近づくと「ワンワワワワンワンワワワワンワンンウオッウオッワオッ!!!!!!!! グォルルルルル」って吠える元気な子が。
カブに乗ったままで郵便受けに手が届く場合は乗ったままで、そうでない場合は降りてから郵便受けまでダッシュするのですが、幸いにもこの家の郵便受けは乗ったままでいけるタイプでした。
「この犬に近づいたらヤバい」と直感したので、カブに乗ったままエンジンを切り、下り坂を利用しグイーンと犬に向かって直進。
この時、スピード自体は全然出ていないのですが気迫で「轢くぞウラァアアアアー!!」と目でアピールし、犬をびびらせるのがポイントです。
犬が一瞬ひるんだ隙に郵便受けに軽やかに郵便物を滑り込ませ、任務完了となります。
この犬との駆け引き、バイトが終わるまで続きました。
ワンコをお庭で飼ってる人は、郵便受けに届かないところでよろしくね!
あれマジで怖いからね! 年に何人かは配達員が噛まれてるらしいからね!
単独での配達初日は、「女の子が配ってるの珍しいね〜」と声をかけられることもありました。
その中でも印象的だったのが「南こうせつおばさん」です。
私を見かけると「おまんじゅう食べる? お茶もあるよ!」とサッとお菓子を差し出してくれて、とてもありがたかったです。
ただバイト中なので、立ち止まるわけにもいかず「じゃあいただきます!スミマセン」ともぐもぐしたまま立ち去ろうとすると、おばさんが額に入った大きな写真を私に見せてきました。
そこにいたのは、目の前にいるおばさんよりももうちょっと若いおばさんと、南こうせつのツーショット。
「これ、もう昔なんだけどね〜♪ ウフフ! 一緒に撮ったの♪」
なんとも嬉しそうなおばさん。
「有名人と一緒じゃないッスかー! すごいですねー!」
……このやりとりがしたかったのか!(笑)
この日の配達が終了した後、担当のハンサムおじさん配達員に「今日、××さんちのおばさんに南こうせつとのツーショット見せられましたよ」と伝えると「ああ、俺もそれあるよ。あの区域の担当になったことある人、全員見せられてると思う」。
よほどの南こうせつ好きなのか、有名人とのツーショットがよほど嬉しかったのか。
南こうせつおばさん、今でもあの写真を大事に大事にしているのだろうか。
別府のさらに山のほうの、田舎の中の田舎。
そんな場所に南こうせつさんの写真がとてつもない輝きを放ちながら(きっと今も)存在しています。
(たぶんあと2回くらい続く)